
写真:山崎 学
広島の夏祭りと言えば「とうかさん」が有名だが、川や海との関わりが深い水の都らしい祭りがある。毎年旧暦6月14、15日が「すみよしさん」、17日は厳島神社の管絃祭、29日が「江波の火祭り」だ。今年は旧暦6月29日が7月29日。「すみよしさん」と「江波の火祭り」はいずれも漕(こぎ)伝馬(船)が重要な役割を担う。
住吉神社(中区住吉町)の森脇宗彦宮司(58)によると、神社は1733(享保18)年勧請の浅野藩の船の守護神。「すみよしさん」は元は厳島神社の管絃祭の前夜祭だった。漕伝馬は長い間途絶えていたが、地元の方の努力で今年正式に復活した。
15日の漕伝馬に雁木タクシーで並走させていただいた。紅白の市松模様の法被を着た漕ぎ手が神社のすぐ横の雁木から乗り込み、まずは神社前で輪を描くように漕いで回る。本川をさかのぼる櫂(かい)の音が風流だ。
田辺雅章氏の「原爆が消した廣島」(文芸春秋)は「すみよしさん」について、「大漁旗をなびかせた漁船団に守られて、勇壮な音頭とともに曳(ひ)き船が川をさかのぼり、相生橋あたりで漕ぎ回しを行い再び川を折り返す。<略>川祭りには家々で、白身の魚を酢でしめた『ちらしずし』が振舞われた。大人たちは川沿いの旅館に陣取り、芸者衆とともに夜の風情を味わっていた」とある。森脇宮司の願いは昔の賑(にぎ)わいや風情を再現することだ。
「江波の火祭り」は衣羽(えば)神社の摂社である住吉神社のご神体が江波の町内を巡る。午前中に陸上を回り、夕方から漕ぎ伝馬に曳かれて川を行き、江波の港に帰る。川沿いや港ではカキの養殖で使われた竹が焚(た)かれる。御座舟と漕伝馬はかがり火の前で3回漕ぎ回る。陸地では一斗缶を叩きながら「オットーランじゃい(神様のお通りだ)」の掛け声があがり、木遣りや太鼓の音とかがり火の灯(あか)りで、幻想的な時間が過ぎていく。
昭和40年設立の「江波漕伝馬保存会」で長年労を取られ、衣羽神社役員の中田豊彦さん(65)にうかがった。江波の漕伝馬「明神丸」は18世紀に管絃祭の御座船を曵く栄誉を得て、現在13代目。昔は御座船から降ろされ港に仮安置されたご神体を夜の間に各町が取り合ったこと、漕ぎ回す時の櫂の使い方など、本当に興味深い話を聞かせていただいた。
広島の水の都の夏祭りは川や海と結びつき、人々の生活に根付いていた。そんな幸せな関係を取り戻したいという思いが雁木組の活動の原点なのだ。
山崎学=NPO法人雁木組理事 (2011年07月21日 毎日新聞「雁木だより」から)
