2012年01月27日

雁木だより-10 雁木とサギ

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写真:坪島 遊


原爆ドームの対岸、元安橋上流の親水テラスの雁木に、春先になると緑の絨毯(じゅうたん)が敷かれる。海からやってきたアオサの絨毯だ。
 雁木組では毎年この時期、この雁木の大掃除をするが、なかなか重労働で、去年は社会貢献活動を体験したいという団体と共同で行った。このアオサは食べられるそうで、毎年アオサ採りをされるおばさんたちがいる。しっかり洗って天日で干せばおいしいアオサ海苔(のり)になるとのことだ。
 アオサにとっての天敵は、満ち潮と共に川を上ってくるボラの子供だ。ボラはもっぱら草食系で、石や雁木に付着したアオサを体を横にして片側の口で剥(は)ぎ取りそのまま飲み込む。ボラたちが横になり銀色の腹を見せ、川底がキラキラ光るのを雁木から見ることができる。それを黙って見ていないのがコサギだ。水面近くを泳ぐボラを待ち伏せしたり、追いかけたりしながら捕って食べる姿がよく見られる。アオサの絨毯は4月の終わりには見事なほどあっさりと姿を消す。
 その4月になると、本川と京橋川の別れにある通称サギ島で、サギたちの子育てが始まる。卵を産む時期は大型のアオサギ、ダイサギが先で、コサギは6、7月になる。子育ての時期が違うのは他のサギ山でも同様だが、特にこのサギ島では場所が狭いためか明確だ。なぜ大型が早いか。コサギが早く雛をかえすと、親鳥がいない隙(すき)に大型のサギがコサギの雛を食べてしまうから、と言われている。巣を作る位置も上手く分かれ、大型のサギは高い位置、コサギは中ほどだ。
 サギ島では毎年、糞やペレット(口から出す未消化物)で木が真っ白になる。他のサギ山はみな、このために数年もしないうちに木が枯れ別の場所に繁殖の場を移す。ところが、ここはいつのまにかまた葉が茂り、サギたちが集まる。その意味では珍しい場所だ。8月初めまでは賑(にぎ)やかなサギ島だが、それを過ぎるとねぐらは別のところに移し、サギ島は休憩場所になる。冬になって、日が短くなり餌を採る時間が少なくなると餌場に近いサギ島にまたねぐらを移す個体もいる。サギ島の四季はこのところ安定してこのサイクルを繰り返し、どの季節も雁木タクシーのお客さんに、一番喜ばれるスポットになっている。

文:坪島 遊  (2012年01月19日毎日新聞「雁木だより」から)

■写真説明 原爆ドーム前の川面を歩くサギ=写真はいずれも坪島遊さん撮影
■写真説明 この季節、太田川では珍しいコサギのV字飛行を見ることができる

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posted by gangidayori at 01:23| Comment(0) | 雁木だより